その日、私は朝から憂鬱だった。
その日は午前と午後に会議が2つ入っており、そのどちらにも例の顧客がいるからだ。
例の顧客の言うことは二転三転するため、一緒に仕事をするのに物凄く神経を使う。無茶な要望により短期間で作らされたシステムが、翌週には白紙になっていたりする(要するにボツ)。
午前の会議は、案件の進捗会議的なものなので、存在感を消すスキルを発動して何事もなく終了した。
問題は午後の会議である。午後の会議は、構築しようとしているシステムと連携先システムとの調整(データ授受方法など)を行う。
普通、それぞれのシステム担当者は自分たちの負担をなんとか減らそうとし、面倒な処理は対向システム側に押し付けようとする。今回の調整会議も、担当者間で面倒ごとの押し付け合いになり、雰囲気が悪くなるだろうと思われた。
例の顧客はプライドが非常に高いらしく、そういう状況では決して譲ろうとしない。万が一譲ろうものなら、目に見えて不機嫌になる。そういう会議に何度も立ち会っているが、空気が非常に重苦しくなるので、逃げ出したい衝動に駆られる。
今回も重苦しい雰囲気になるんだろうな…と、暗澹たる気持ちでいると会議が始まっていた。
「○○(とある処理)はどちら側で行いますか?」
例の顧客がジャブを打つ。明言はしていないが、言外に「面倒事は相手に押し付けたい」気持ちが前面に出ている。
相手側の担当者が応戦し、第一ラウンド開始かな…
「○○(面倒な処理)の性質から言って、こちら側で行うのが適切だと思います」
…!
例の顧客がさらに続ける。
「△△(面倒な処理)はどうしましょう?」
「△△(面倒な処理)に必要な変換表をこちら側に持ち、こちら側で行いましょう」
…!!
神様かな…?
結局、不透明だった部分はほとんどすべて相手側システムで吸収してくれることになった。
例の顧客は面倒事がすべて片付けられたので上機嫌だった(片付けられたわけではなく、相手側システムが引き取ってくれたに過ぎない…)。
会議が終わって自席に戻ると、どっと疲れが襲ってきた。精神的には既に金曜日の夕方くらいの疲労だった。
憂鬱なイベントが終わり、明日からの仕事は抜け殻のように過ごすのだった…