私は昔夜勤ありの仕事をしていた。
システムの運用監視で、特にスキルらしいスキルはいらない。
若手は定刻になったら簡単なオペレーションを行う。サーバールームに行って簡単なコマンドを売ったりする。
コマンドによってはえらい時間のかかるものもある。
レスポンスが帰ってくるまで20分くらい待たされるとかはざらだった。
私はそんななとき、時間ができたら携帯で怖い話を読んでいた。
夜勤中なので当然深夜、サーバールームは電気が眩しいくらいについているが、だだっ広い部屋に人間は自分だけ。
そんな孤独な空間で一人怖い話を読んでいた。
とある怖い話を見つけた。
それは「猿夢」という題名だった。有名なので知っている人は多いかと思う。ググればすぐに出てくる。そんなに長くないので知らない人は読んでほしい。
私はこの猿夢という怖い話を読んで死ぬほどビビり倒した。
夜寝るのが怖くなったほどだった。年甲斐もなく暗闇や物陰を恐れるようになった。
それから幾年か経過し、めぼしい怖い話はあらかた読んでしまったときに、久しぶりに猿夢をもう一度読んでみようと思った。
全然怖くなかった。
猿夢を初めて読んだときはまだネットの怖い話やオカルト話に触れ始めたばかりの頃で、今だったら明らかに創作だと一笑に付すような話にも戦々恐々として読んでいた背景があった。
それから多くの怖い話を読むにつれ、段々と怖い話にも慣れていき、しまいには飽きつつあった。
当時あれほど怖かった猿夢という話も、年月を経て怖くなくなってしまった。
ネットの怖い話で「リアル」というものがある。
これを私が読んだのはだいぶ後になってからだった。
リアルは今でも「あれは怖い」「よくできた話」「一番怖い」などと恐れられている。
しかし私にはどうにも怖いとは思えない。
大体、心霊現象が起こるきっかけとなる行為が「前かがみになって横の鏡を見る」という単純なものなのがどうにも納得行かない。
私は心霊現象にも一定の物理法則や必然性があるべきだと思っている。
特定の行為をするだけで心霊現象が起こるのなら、その行為に心霊現象が起こる理由が必要だし、それが説明されなければならない。
ネットの創作話はこの辺を省略していたり、逆に不自然な流れで詳しすぎる曰くを知らされたり。
心霊スポットに行けば怪奇現象が起こるのは当たり前か?
なんで都合よく周りに事情を知っている人がいるんだ?
こんなことを考えるようになってしまって、素直に楽しめなくなってしまった。
猿夢を怖がっていた当時の私のほうが、物事を楽しめていた気がする。