自宅のすぐ近くには全国的にも有名な東京の繁華街がふたつある。そのうちのひとつにある美容院に行ったときのこと。
「このあたりはよく芸能人が歩いてますよ。○○(自宅近くのもうひとつの繁華街)に行くともっといます」
などと美容師が言う。
「この間カフェに○○いました。変装してましたけどね。○○も歩いてるの見たし、○○なんかはほぼ毎日見かけますね」
好きな芸能人いますかと聞かれて、お笑い芸人はそれなりに好きと答えたからか、有名なお笑い芸人の名前を次から次へと挙げていく。
美容師の話はなおも止まらない。
「○○が飲み屋にひとりでいて、声かけたら一杯奢ってくれたり。女優の○○も歩いてるの見ましたね」
いつしか挙げられる芸能人の名前は俳優や女優にまで及んでいく。芸能に疎い私でも知っているようなビッグネームが並ぶ。あまりにも矢継ぎ早に「見かけた」エピソードを喋られるので、正直あまり誰のことを言っていたのか今は覚えていない。
私は散歩で自宅周辺をよく歩く。時には繁華街の近くまで行くこともあるが、ただの一度も芸能人を見かけたことがない。
というのは、私はすれ違う人の顔を見たりはしないし、芸能人を見つけてやろうという気持ちで歩いているわけでもないから、仮にすれ違っていたとしても気付かない。
美容師が言うほど頻繁に芸能人が歩いているのなら私だって一度くらいすれ違っていたとしても不思議ではない。おそらく知らない間にすれ違っていたこともあると考えたほうが確率的には高いのだろう。
しかし根本的に芸能人にそれほど興味がないので、美容師の止まらない「見かけた」エピソードを聞きながらへぇだのほぉだの、時には感情を込めておぉ!なんて言ってみたりしていたが、内心どうでも良かった。