いつものようにスーパーに買物に行ったときのこと。
会計しようとレジに行くと、ちょうど前の人が終わりそうだったのでそこへ並んだ。
しかし客がスマホを見ながらなにか操作をしているようで、決済に手間取っているような雰囲気だった。
おそらく昨今乱立するスマホ決済をしようとしているものの何らかの原因によりうまくいっていないように見えた。
品物はすべてレジ通過済みであとは決済するのみというところまできているのに、待てど暮らせど一向に私の順番が来ない。
まずいところに並んでしまったな。
思いながらふと後ろを見ると、ちょうど後ろのレジが空いたところで、他に順番待ちをしている人もいないようだった。
これ幸いとばかりにかごを後ろのレジを移してこちらで会計してもらうことにした。
店員が品物をレジに通している間、手持ち無沙汰に佇んでいたら、後方から怒号のような叫び声が聞こえてきた。
「やってるじゃんか!」
怒号というよりは癇癪だった。
確かめるべくもなく声の主は先程見た決済に手間取っていた人だと思われた。
聞こえてくるのは怒りを爆発させている声のみで、対応している店員の声は聞こえてこない。
そのため何に対してこんなに怒っているのか判然としないが、状況的にスマホ決済がうまくいかないから我慢できなくなって声を荒げているように思われた。
ちゃんと見てない上にマスクをしていたのではっきりとはわからないが、30代くらいの主婦らしき人物に見えた。
いずれにしろもういい大人である。
こんな公共の場で声を張り上げるほど感情を顕にしていい歳ではない。
仮に店員の対応に落ち度があったとしても、彼女の反応は短絡的であると言わざるを得ない。
ネット上でたまにこういう手合の話は効いていたので存在は知っていたが、今まで自分自身が遭遇したことはなかった。
まさか本当にいるとは。
ネット上で同様の話を聞くたび、自分が経験してないからか、どこか都市伝説じみたものだと思っていた。
小さい子供ならまだしもいい大人が人目もはばからず大声で感情を爆発させるなんてことがあるのか。
そういう手合は本当にいる。
この日、確信となった。
結局、彼女のスマホ決済がうまくいったのかいかなかったのか、よくわからないまま彼女は足早に去っていった。
さすがにいたたまれなくなったのかその場からいち早く立ち去りたかったのか。
そうだとしたら始めから癇癪なんて起こさなければいい。
いたたまれなくなることすら予想できない人物だからこそ癇癪を起こしてしまったとも言える。
接客業は大変だなと思った。