夢で見たことが現実になることを正夢という。
小学生のとき、私は同じクラスの女の子に密かに恋心をいだいていた。
しかし、どこでもそうだと思うが、小学生の頃は異性を変に避けているところがあり、異性と仲良くしようものならバカにされたり下手すればいじめられることにもなる。
それは結局、異性を意識しだすことの反動にすぎないのであって、本当は異性の存在が気になっている証拠でもあるのだが、当時の私はそんなこと知る由もなかった。
当時の私もご多分に漏れず一緒に遊ぶのはもっぱら同性の男友達だけ。
女子の友達とは教室で必要最低限のことを話すだけだった。
ある日、私は夢を見た。
詳しくは覚えていないが、当時好きだった女子と楽しくお喋りなどをしている夢だった。
夢から覚めた私はしばらくは幸せな気分に浸っていたが、やがて落ち込むことになった。
幸せだったのは夢の中だけで、現実は女子と楽しくお喋りすることはない。
男友達とバカなことをして遊ぶのだって楽しい。
しかし異性と仲良くすることは、それとはまた違った幸せを感じられるのだという予感があった。
その幸せを味わうことは、当時の私には夢のまた夢だった。
そんな夢を見たことすらも忘れていたある日、クラスで席替えがあった。
それまで班ごとに机をくっつけて、教室内にいくつか島があるような形だったが、そのときは男子と女子を一組として机を横並びにし、その一塊をいくつも作るという形にするということになった。
そう、私はその席替えで当時好きだった子の隣になった。
「よろしくね」
笑顔でそう言う女の子。
私は舞い上がった。
それから私はここぞとばかりに、たとえ授業中であっても女の子とお喋りをした。
相手にしてみれば授業中に話しかけてくるのは迷惑以外のなにものでもないが、当時の私はとにかく舞い上がっていた。
しかし女の子はそんなことはおくびにも出さず、私のしょうもない話でよく笑ってくれた。
ある日、隣の女子がノートに漫画を描いていた。
私はそれを見て、自分も漫画を描こうと思った。
好きな子との共通の話題が増え、より親密になれるのではないかという下心満載の動機だった。
学校から帰って漫画を描いた。
絵心のない小学生が描いた下手くそな漫画だった。
翌日、その日も漫画を描いている女の子に、自分も漫画を描いてきたという話をした。
女の子は驚いたような顔をして、それから「見せて」と言った。
それから女の子と漫画の見せ合いっこする日々が始まった。
やがて私の友達のひとりも漫画を描くようになった。同じように女の子の友達も漫画を描くようになった。
それから男子2人、女子2人の合計4人のグループでよく集まるようになった。
授業が終わって放課後になっても4人だけいつまでも教室に残って漫画を描いたり見せ合いっこしたりしていた。
卒業するまで続いたが、結局、それ以上の進展はなかった。
でも所詮小学生の時分だし、それでも良かったのだと思っている。
正夢というよりかは、ただ偶然が重なっただけだと思うが、当時見た夢のこととそれが現実になったということは今でも覚えている。