知らない人からよく声をかけられる日

昔、住んでいたところのスーパーで買い物をしたときのこと。

確かシチューを作るために、ルゥ、じゃがいも、にんじん、たまねぎ、ブロッコリー、牛乳と一通りかごに入れてレジに行った。

するとレジの女性(おばさん)に声をかけられた。

「自炊してるの? 偉いねぇ。わたしの息子なんて全然しなくてねぇ」

突然のことだったので驚いた。

まさかレジの人から話しかけられるとは微塵も考えてなかった。

当時、若くうぶだった私は「えへへ...」などと言いつつ気持ち悪い笑顔でレジを後にした。

レジの先にある梱包机で商品を詰めていると、隣におじいさんがやってきた。

おじいさんはペットボトルのコーラを私の方へ突き出しながら言った。

「ほれ、これ(コーラ)やる。おれは飲まねぇから」

まずはじめに、飲まないならなぜ買ったという当然の疑問をいだいた。

それから考え直し、きっと何かの景品でもらったものなんじゃないだろうかと思った。

しかし、見ず知らずの人からいきなり物をもらうのは危険だということくらい、いくら若い時分でもわかっている。

その昔、毒物を入れた飲み物を自動販売機などに放置しておき、それを拾って飲んだ人が死んだという無差別殺人事件があったことも知っている。

昔と違い今(当時)はコーラの容器も進化しているので一度栓を開けたものならすぐわかるようになっている。

それでも年を置いて知らない人からもらったものには口をつけないでおくのが鉄則だ。

しかし、私はそのコーラを受け取った。

断っても「遠慮するな」などと言われ押し問答のようになるのが面倒だったから。

受け取っても口をつけなければ問題ない。帰ってから捨てればいいだけのこと。

その日は知らない人からよく声をかけられる日だったのでよく覚えている。

ただそれだけ。