並んで歩くぼくと相原から少し離れたところを新野さんと三枝さんが歩いている。相原が前を歩く女子二人を見ながら僕にささやいてきた。
「新野ってさ、中学のときと比べて、なんか変わったよな」
「...変わったって、どんな風に?」
「うまく言えないけど、雰囲気が大人っぽくなった」
正直言ってぼくは中学のときの新野さんがどんな感じだったのか覚えていない。彼女に言われるまで同じ中学だったことに気づかなかったくらいだ。
だから相原に彼女がどんな風に変わったかを説明されてもピンとこなかった。
ただ、相原が彼女を褒めているということは間違いなさそうだった。
「変わったといえば、榊、おまえもだけどな」
「?」
「変えただろ、髪型」
「まあ...」
「色気づきやがって、好きな子でもできたか?」
もし相原に本当のことを話したら、今日一日、ぼくに協力してくれるだろうか。
さっきの発言からして、相原も新野さんのことをよく思いはじめているのは間違いない。いま正直に話してしまうと、逆に出し抜かれたりしないだろうか。
気がつくと前を歩いていた女子二人がこちらに向かって手を振っていた。
「おーい、電車に乗り遅れちゃうよ」
いまは誰にも言わないでおこう。ぼくはそう決めると、急いで電車に乗り込んだ。
電車に乗り込んだぼくたちは、乗降口付近のスペースで円になって立ちながら話をしていた。
田舎の電車とはいえ、夏休み初日ということもあり家族連れやぼくたちのような友達同士と思われる集団がたくさんいて、車内はそれなりに混んでいた。
「それにしても、相原の遅刻癖は相変わらずだな」
「まだ言うか、おまえ..」
「ふたりとも仲良しだね。新野ちゃんも同じ中学だったらしいし、なんかあたしだけ仲間はずれの気分...」
三枝さんがすねたように言う。表情からして本気ですねているわけではなさそうだ。
「ねえ新野ちゃん。このふたりの昔の話、聞かせて」
「あ、でも、わたしはふたりとはそんなに仲良くなかったし、それに...」
新野さんが困ったような顔をしてぼくのほうをちらっと見る。
ぼくは彼女の言わんとしていることを引き継いだ。
「...その、ぼくは最初、新野さんと同じ中学だったってことに気づかなくて...」
「おまえそれ、ひどすぎ」
真顔の相原に窘められた。この件に関しては全面的にぼくが悪いので何も言い返せない。
「まあまあ、いまこうして一緒にいるってことは、新野ちゃんも許したってことでしょ。せっかくみんなで遊びに来てるんだし、もっと明るい話題にしよ」
三枝さんの言葉でよどみかけていた場の空気が一変したようだった。
この三枝という女の子は、いわゆるムードメーカーのようだった。彼女が持つ雰囲気でその場の空気を明るいものにしてしまう。それに相原が声をかけただけあってなかなかの美人でもあった。
彼女は髪や化粧に手を入れていたり、細かいアクセサリーなどにも気を使っているようだった。この見た目と明るい内面ならば、異性から相当もてるんじゃないかと思われた。
「...榊くん、だっけ。あたしの顔になにかついてる?」
三枝さんがぼくに詰め寄ってくる。まじまじと彼女を見ていたことに気づかれてしまった。
新野さんと相原はふたりでなにか話し込んでいるようで、こちらの話は聞こえていないようだった。
「ひょっとして、あたしのこと好きになっちゃった?」
「いや...」
「そんなわけないよね、意中の人は他にいるみたいだし」
三枝さんはぼくの返答など必要としていないかのように話し続ける。
「昔からわかっちゃうんだよね、そういうこと。その人の言葉とか態度とか、この人はどういうタイプの人を好きになりそうだとか、そういうのでわかるんだ。相原くんが新野ちゃんのことをよく思ってるのもわかってる」
相原のことはぼくも想像でしかないけど、彼女の言っていることは当たっているように思えた。
三枝さんの独白は続く。
「中学のときはあんまり接点がなかったそうだから、さっき駅の待合室で新野ちゃんと再会したときにひと目で気に入ったのかもね。たしかに新野ちゃんって同性のあたしから見てもかわいらしいし。...ねえ、気にならない?」
「...?」
「新野ちゃんの気持ち」