一日目
緊急入院が決まり病室に通され一通りの説明を受けた後、軽くベッドに寝転んだらあっという間に寝落ちしてしまった。
前日から一睡もできていなかったので当たり前だろう。
小一時間ほど眠るとだいぶ眠気が取れたのでデイルームという休憩スペースまで歩いて行くことにした。
左腕から伸びる点滴の管と鼻から伸びる管が滑車付きの点滴棒に繋がっているので、今後はそれとともに移動する必要がある。
デイルームまではたかだか40mほどだったが、そこまで歩くだけでひどく疲れた。
デイルームの椅子に座って人心地ついているとエージェントから電話がかかってきた。
事情を説明し今後のことについて話し合った。仕事にかかる調整事はすべて一任してもらえることになった。
自分のベッドに戻り持ってきた鞄の中身を確認する。
とはいえまさかそのまま緊急入院することになるとは思ってもみなかったので、鞄にはいつも持ち歩いているものしか入っていない。
財布、折りたたみ傘、モバイルバッテリー、ティッシュ、ハンカチ、携帯歯ブラシ。
既にスマホの充電が切れそうだったので取り急ぎモバイルバッテリーで充電した。充電がなくなると誰とも連絡すら取れなくなってしまう。
その日の夜、彼女の仕事が終わったので電話で事情を説明した。
仕事の休憩中に私からのLINEを見て心底驚いたようだった。逆の立場なら私だって同じ反応をする。
面会時間は平日15:00-20:00、休日11:00-20:00に制限されているので、彼女は平日仕事のためすぐに面会に来ることはできない。
ただし物品の受け渡しだけなら8:30以降であれば看護師を通して可能とのことだったので、明日出社するついでに持ってきてもらうことになった。
仕事終わりで疲れているだろうに、今晩中に荷造りしてもらって翌朝に病院まで来て届けてくれることになった。
ちなみにしばらくは鼻から胃まで管を通したままなので食事はできない。栄養摂取は点滴で賄う。前日の朝から何も食べていなかったがまったくお腹は減っていなかった。
二日目
朝、鼻から伸びた管の先についているパックを確認するとどす黒い液体がパンパンに溜まっていた。
腸に溜まっている内容物がうまく排出されているようで安心した。
しかし下腹部はまだ張っている感じがあり軽く押してみると痛かったのでまだまだ内容物が残存しているのだと思った。
彼女からLINEで病院まで来て荷物を届けたと連絡があった。間もなくして看護師が荷物を持ってきてくれた。彼女には感謝しかない。
鞄を開けると一番上に便箋が置いてあり中に手紙が入っていた。送り主は当然彼女からだった。
突然の入院で大変だろうけど頑張ってというような内容のことが書いてあった。この手紙は宝物として一生とっておくことを心に誓った。
LINEとメールで両親に現在入院中だと伝える。身の回りのことは彼女にしてもらっているので心配はいらないことも併せて伝えた。
もし私が未だに独り身だったら遠く離れて暮らす両親に余計な心配をかけてしまっただろう。
彼女がいることでそこまで心配しなくてもいられる。もう高齢の両親にいらぬ心労をかけたくない。
鞄の中から持ってきてもらったMacbookを取り出す。これさえあればいくらでも時間を潰すことができる。
povoで一週間使い放題(¥1,800)のトッピングを購入しテザリングしてMacbookにつなげる。前日できなかった日課のRSS巡回をこなす。
夜までぐだぐだと動画を見たりしながら就寝。ちなみに同室の人のいびきが凄まじくて眠りは浅い。
三日目
朝、管の先のパックには昨日ほどでないにしろやはりどす黒い液体が溜まっていた。
体内に溜まっていた内容物はどんどん排出され、初めどす黒い液体だったものがだんだん緑色になっていった。これは腸に繋がっている胆嚢の胆汁とのことだった。
トイレは頻繁に行っており、そこでも黒色や緑色の便が出ていた。
排便できているということは腸にできているしこりが治癒してきているということ。順調に回復しているようで安心した。
彼女に持ってきてもらった荷物の中から本を取り出す。
これはだいぶ前に買ったが積読になっていた本で、いい機会だから読むことにした。
本を読んだりネットをしたりして一日が過ぎていった。
ちなみに同室のいびきが凄まじい人は誇張なしに一日の2/3ほど寝ており、その間ずっといびきをかいているので私は常にイヤホンをつけて生活していた。
四日目
パックに溜まった内容物の量もだいぶ減ってきており、色も黒色から緑色、そしてこのときにはほとんど透明な液体になっていた。
下腹部の張りもだいぶなくなっていて軽く押してもほとんど痛くない。
腸に溜まっていた内容物が完全に排出されたのだと思われた。
この日は朝から医者がやって来て、お腹の状態を見るために検査をすると伝えられた。
まず鼻の管から造影剤を注入する。その状態で1〜2時間くらいの間隔で合計4回のレントゲン撮影を行う。
胃に流し込んだ造影剤が腸に行き便として排出されれば閉塞は解消されたといえる。
鼻の管から胃に直接造影剤を注入され、すぐに一回目のレントゲン撮影を行う。
一時間後に二回目のレントゲン撮影、さらに二時間後に三回目、そのまたさらに二時間後に最後のレントゲン撮影。
その日はそれで終わった。
入院生活②に続く...