おもいで

小学生の時分、移動手段は徒歩か自転車の二択だった。

私たちはそれぞれの自転車に乗り、縦一列になって、それなりに交通量のある二車線道路の路側帯をひたすら進んだ。

目指すは隣町のさらに先にある、田舎にありがちなスーパーマーケットや洋品店なんかが一体になっている商業施設。

その中にあるおもちゃ屋に当時私たちの間で流行っていたマジック・ザ・ギャザリングというカードゲームを買いに行った。

もっと近くに売っている店はあったと思う。ただ幼心に芽生えた冒険心を満たすためにその商業施設を目的地に選んだ。

親の車で何回も行ったことはあったが子どもたちだけで行くのは初めてだった。

細い路側帯なので我々一行は縦に連なるしかなく、直ぐ側を走る車に気をつけながらの行軍だったので特に会話もなかった。

車だったらせいぜい10分で着く距離、自転車だとどれくらいかかっただろう。一時間以上はかかった気がする。

ようやく到着した私たちは休憩もそこそこに、おもちゃ屋目指してさらに走った。

この日のために少ない小遣いを貯めていた。

私は数枚が入っているだけのパックではなく、初めから一つのデッキになっている箱を買った。

みんなもそれぞれ買い、休憩スペースで一斉に開封することにした。

私の買った箱には甲鱗のワームというカードが入っていた。

特別頭が悪くマジック・ザ・ギャザリングのルールをちゃんと知らなかった私たちは、右下に書かれている数字が攻撃力と防御力と認識していた(未だによく知らない)。

それだけを見て「つえー!」と大盛りあがりになった。

とにかく頭が悪かった(今もだけど)。

甲鱗のワームは強いがその分召喚コスト(右上)も高く、場に出しづらいカードではあった。

召喚するにはマナというコストを貯める必要があるが、あからさまに貯めていると甲鱗のワームを召喚しようとしているのがバレバレになってしまう。

しかしひとたび召喚してしまえばあとは無双だった。甲鱗のワームより強いカードを持っている友だちはいなかったから。

町役場のエントランスホールに入り浸ってよくマジックをやった。

人なんてほとんどいないのに、無駄に豪華な内装のエントランスホールだった。

人もいないし静かだし空調効いてるし、子どもが遊ぶ場所としては最高だった。

今はもう甲鱗のワームどころかあれだけ買い集めたマジックのカードは一枚も残っていない。

覚えていないがどこかのタイミングで捨ててしまったんだろう。

甲鱗のワームという名前は未だに覚えている。当時の思い出とともに。