昔、父親の頼みで奈良県にある陶芸の店に父を連れて行ったことがある。
そこは奈良県の中でも田舎のほうにあるところで、目的の店意外にも周辺には陶芸の店が数多くあるところだった。
街全体が陶芸を売りにしているようなところだった。
目的の店はその中でも大手というか人気があるのか知らないが、広い敷地に雑然(店の人に言わせたら整然なのかもしれない)と陶芸品が野ざらしで置いてあった。
数を数えることはできないが、ゆうに1万点は超えていそうだった。
陶芸品の種類は、普通の皿や茶碗もあれば、たぬきや亀などの動物をかたどった置物なんかもあった。
父は楽しそうにそれらを眺めていたが、私は一切興味がなく、暇でまた手持ち無沙汰だったのでぐるっと一周することにした。
店の裏手あたりには陶器を焼成するための大掛かりな窯が鎮座していた。
昼間にも関わらず薄暗いそのエリアを散策していると、向かいから店主が手に陶器をもって歩いてくるのがわかった。
しょうどそのとき私はビデオカメラにはまっており、なんとなく周辺を撮影していたところだった。
店主の存在に気づいたとき、私はビデオカメラに人の姿が入るのを嫌がった。
反射的に店主に向かって手で「避けろ」と合図を出してしまった。
ちょうど虫でも払うかのように、シッシッと手首だけを使って横にずれろとやってしまった。
私はやってからしまったと思った。
ほとんど無意識にそういう行動をしてしまい、したあとは店主がたいそう不快な思いをしたであろうことを感じ後ろめたい気持ちになった。
その後はできるだけ店主を避けて行動していた。
なんであのときあんなことをしてしまったのか、今でも口開とともにたまに思い出す。