気付いてからの気まずさたるやなかった

散歩をしていると前方から高齢の男性が歩いてくるのがわかった。男性とすれ違うとき、男性からラジオの音が聞こえてきた。

『...radikoをご存知ですか? radikoはパソコンやスマートフォンでラジオが聞ける...』

これはラジオの音というよりラジオの宣伝をしているradikoの音だ。なんでそんなものを聞いているのか謎だった。ラジオのCMで流れてたのかな。

そんなことより、ラジオの音を垂れ流して聞くのはどうかと思った。

しかしすれ違うときに横目でちらっと男性を見たが、どうやらイヤホンはつけているようだった。もしかして本人はイヤホンで聞いているつもりだったが、実はイヤホンジャックからイヤホンが抜けていて(抜けかけていて)音が垂れ流しになっていたのか。

イヤホンから聞こえる音とラジオ本体から聞こえる音を間違うか?

私も昔同じようなことを経験したことがあるので無碍にもできない。

高校生のとき、家にノートパソコンがやってきた。親が使うことはほとんどなく使うのはもっぱら私だった。しかしほとんど使わないとは言え親もときどき使うことがある。だからノートパソコンを自室に持っていくことは禁止されていた。

学校から帰って寝るまでの間、休日に至っては起きている間中ずっとリビングでパソコンをしていた。

ある日の夜、私はイヤホンで音楽を聞きながらパソコンをしていた。リビングには私以外に父がいた。

私はイヤホンで音が漏れないのをいいことに、当時流行っていた電波ソングを聞いていた。

今の人達は電波ソングなんか知らないだろう。当時はギャルゲーやエロゲーが流行っていて、それの主題歌として、ぶっ飛んだ歌詞と曲調の曲が多く作られた。

私はギャルゲーやエロゲーは一切しなかったが、その主題歌は好きで集めてよく聞いていた。中でもI've soundのKOTOKOが好きだった。KOTOKOのラジオ番組『コトコノコト』も聞いていた。

既におわかりの通り、イヤホンは完全にささっていなかった。いわゆる半挿しの状態だった。

リビングに響き渡る電波ソング。そうと知らずにイヤホンで聞いているつもりの間抜け(私)。あのときの父の心境はいかなるものだったのか。

父は聞こえていないはずはなかったはずだが、それについてなにか言ってくることはなかった。黙々と本を読んでいた(よく読めるな)。

やがて私はなにかおかしいことに気づき(やっぱり聞こえてくる音の感じが違うから)、あわててイヤホンを挿し直したが時は既に遅かった。

気付いてからの気まずさたるやなかった。父にしてみればそれ以前からずっと気まずい空気を感じていたんだろうが。

終わり。