もしかしたら将来、家をもらえるかもしれない

数年前、母と一緒に母方の祖父母宅へ行った。朝から助手席に母を乗せて、片道1時間半程度かけて県内でも辺鄙なところにある家へ車を走らせた。

祖父母宅から車で30分くらい行けばそれなりな規模の街があるが、祖父母宅の周りにはほとんど家は建っていなく、あるのは広大な田園地帯だけ。

というのも祖父母は米農家で、周りに広がる田園地帯はすべて祖父母が所有する田んぼなのだった。

夏は虫が多いし夜になるとそこら中からウシガエルの大合唱が聞こえてきてろくに眠れやしない。ただ、それはそれで風情があっていいなと思う。

元来私は自然が好きなので、そういった辺鄙なところにある祖父母宅が好きだった。

祖父母宅に到着すると母はいそいそと家の中へ入っていった。私はというと、車に寄りかかりながらぼーっと周りの風景を眺めていた。

冬の早朝で天気は快晴。何をするわけでもなく、ただ無心で佇む。しばらくそうしていると、やがて母が用事を済ませて戻ってきた。

戻ってきた母は私にこう言った。

「○○(私の実家のある地元)の家とおばあちゃんち、どっちが欲しい?」

私はなんとなく今ここではっきりしたことは言わないほうがいいと思い、曖昧に答えた。

母は「そっか」と言い、その話はそれで終わった。

あの質問はどういう意味だったのだろうかと考える。素直に受け取るなら、私の実家か祖父母宅のどちらかを将来私にくれるということを示唆している?

私は次男なので家督を継ぐのは兄だと思っていた。家督には実家も含まれるだろう。

それから母には弟がおり(私にとっての叔父)、祖父母が高齢になってからは叔父が祖父母宅の米を作っている。だから祖父母宅を継ぐのも叔父だと思っていた。

しかし、最近兄はマンションを買ったという話を聞いた。叔父が継ぐのは田園地帯だけで祖父母宅は含まれないかもしれない。

もしかしたら将来、家をもらえるかもしれない。