あなたの古い記憶にあるその友達は、本当に存在していたと言い切れますか?

私がまだ1歳か2歳くらいのとき、近所に少し年上の女の子が住んでいて、よく一緒に遊んでいた記憶がある。

女の子はたぶん幼稚園の年長か小学1年生くらいだったと思うが、当時の私からしたらだいぶ年上のお姉さんという感じだった。

あまりにも幼少期のことなので女の子がどんな顔をしていたのかはまったく覚えていないし、何をして遊んだのかも覚えていない。ただ、小さいときによく一緒にいたというかすかな記憶だけが残っている。

そのとき私の家族は一軒家ではなく集合住宅に住んでいた。私が幼稚園に入る前に一軒家に引っ越したので、逆算して1歳か2歳の頃の記憶ということになる。

おそらくは女の子も同じ集合住宅のどこか別の部屋に住んでいた中のひとりだったんだろう。集合住宅の前の空き地のようなところで一緒に写真を撮ってもらったこともある。

だいぶあとになって昔の写真を見ていたらそのときの写真があって「この女の子、誰だ?」と思い母に聞いてみると、「よく一緒に遊んでたじゃない」と。

ところで、『人志松本の○○な話』のゾッとする話で、中山功太という芸人がした《吉田くん》という話がある。

中山の幼少期、仲のいい友達に吉田くんという子がいた。

ある日、幼稚園で吉田くんが粘土でうんこを作った。それを見て中山と吉田くんはふたりして大笑いした。

すると、大笑いした拍子に吉田くんの目玉が眼前に勢いよく飛び出した。それは昔のギャグ漫画のように、眼窩から細い筒状のものが飛び出し、その先に目玉がついているというような飛び出し方だった。

それを見た中山は驚き「今、目玉飛び出したよね...?」とおそるおそる聞くと、吉田くんは「うん... うん...」とバツの悪そうに答える。まるで見られたくないものを見られてしまったかのように。

その翌日、中山が幼稚園に行くと吉田くんがいなかった。「今日は休むのかな」などと思い先生に「吉田くんは?」と聞くと、先生はこう答えた。

「吉田くん? 誰それ」

冗談を言っているようには見えなかった。本当に吉田くんなんていう子どものことなど知らないというように、先生はただ首をかしげるばかりだった。他の先生や友達、母親に聞いても返ってくる答えは同じだった。

吉田くんの目玉が飛び出した次の日から、吉田くんの存在がこの世から消えた。

消えたのは存在だけではなかった。吉田くんと一緒に撮った写真や幼稚園の集合写真など、吉田くんを写した写真がすべてなくなっていた。

というのが、中山功太のした《吉田くん》という話。

目玉が飛び出すというあまりにも現実離れした内容や、当時の中山が吉田くんの正体について思った「ロボットなの?」という頓珍漢な発想から、怖い話というより笑い話になってしまっているが、個人的には大好きな話。

中山の記憶にある吉田くんとはイマジナリーフレンドなんじゃないかと思う。目玉が飛び出すというのは中山が読んだギャグ漫画の記憶が合わさったものだろうし、吉田くんは初めから現実には存在しないのだから、そもそも「消えた」という記憶が間違っている。

私の記憶の中にも中山における吉田くんがいる。

幼少期、よく一緒に遊んでいたあの女の子は本当に存在していたのだろうか? 彼女は私が作り出したイマジナリーフレンドだったんじゃないだろうか?

私はふとこの考えが浮かんだとき、無性に恐ろしい気持ちになった。おそらくは私の中で一番古い記憶、それが私の頭の中にしかない空想だった...?

中山は吉田くんを写した写真自体がなくなっていたと言ったが、私は成長してから彼女と一緒に撮ってもらった写真を見たことがある。母も女の子について「昔、よく一緒に遊んでいた子」という認識があった。

そう考えるとあの女の子はイマジナリーフレンドではなく、ちゃんと現実に存在していた友達だという可能性が高い。

あなたの古い記憶にあるその友達は、本当に存在していたと言い切れますか?