ノスタルジック '00 (15) 《告白》

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今日の締めくくりにみんなで大観覧車に乗ろうということになった。

三枝さんの「相原くんとふたりで乗りたいな」という一言により、相原と三枝さん、ぼくと新野さんに分かれて乗ることになってしまった。

三枝さんのこの発言は、おそらく本心ではないと思った。なぜならラビリンスというアトラクションで彼女と一緒に行動していたとき、彼女はぼくに協力してあげると言ったからだ。

三枝さんと相原がふたりで乗ることにより、残されたぼくと新野さんも必然的にふたりで乗ることになる。

相原の様子も変だった。今日一日の発言や行動からすると、三枝さんの言葉に反発してもおかしくないと思ったが、意外にもすんなりとそれを受け入れた。ラビリンスの中でなにかあったのだろうか。

ぼくたちを乗せた大観覧車のゴンドラはゆっくりと高度を上げていく。はじめは地上にいる人たちの目鼻顔立ちを判別できていたが、だんだんと靄がかかったようにおぼろげになっていった。

「きれいだね、夕日」

新野さんが外を見ながらつぶやく。夕日が遊園地のアトラクションをオレンジ色に染め上げていた。

彼女はどんなことに思いを馳せているんだろうか。その横顔はどこか憂いを帯びているようにも見えた。

彼女のことがもっと知りたかった。ぼくは覚悟を決めた。

「初めて選択授業があった日、新野さん、挨拶してくれたよね」

「無視されちゃったけどね」

「それは、ごめん。でも、本当は嬉しかったんだ」

「うん...」

「ありがとう」

「お礼なんて、いいよ」

「新野さんとときどき話すようになってから、週に一回の選択授業の日が楽しみになってることに気づいた」

「...」

「ふたりで一緒に帰った日、はっきりとわかった」

「...」

「新野さんのことが好きなんだって」

恥ずかしくて、恐くて、彼女のほうが見れなかった。手が震えた。体温が熱かった。

彼女はなにも言ってくれなかった。彼女の様子を確認したかったができなかった。永遠とも思える時間がいつまでも流れたような気がした。

「わたしも」

彼女が口を開く。

「好きだよ、榊くんのこと」

「...ほんとに?」

「うん」

思わず泣きそうになってしまった。嬉しさと、緊張から開放された喜びとで。泣くわけにはいかないのでぐっとこらえた。

彼女の言葉を聞いた後も信じられないという思いでいっぱいだった。

ぼくたちを乗せたゴンドラはいつの間にか折り返し地点の頂上を通り過ぎ、地上へ向けて下降を開始していた。とにもかくにも必死でまったく気づかなかった。

ぼくが彼女に思いを伝えた後、彼女は長らく黙ったままだった。答えをどうするか考えていたんだろうか。ぼくは彼女にそのことについて尋ねてみた。

「答えは最初から決まってたよ」

「じゃあ、なんで...」

「待ってたの」

「なにを?」

「ゴンドラがてっぺんに来るの」

こっちは緊張で張り裂けそうだったというのに、ロマンチックなものに演出するためにわざわざタイミングを見計らっていたとは...

彼女には勝てないなと思った。

数分後、ぼくたちを乗せたゴンドラが地上へ帰ってきた。ゴンドラを降りると先に乗っていた相原と三枝さんが待っていた。

「その様子だと、ハッピーエンドみたいだな」

「良かったね、新野ちゃん」

相原と三枝さんが声をかけてくる。このふたりが協力してくれたから思いを伝えられたのかもしれない。そう考えるとふたりにも感謝したかった。

「ん?」

ふたりの手が繋がれていた。

「おれたち、付き合うことになった」

三枝さんの「相原くんとふたりで乗りたい」という発言は本心だったということか。

三枝さんが不敵な笑みを浮かべながらこちらを見ている。やっぱり彼女の考えていることはわからない。

ふと気がつくと新野さんがこちらを見ていた。ああ、そうか。

ぼくは新野さんの手を握った。

彼女はぼくの手をぎゅっと握り返した。

(了)