ノスタルジック '00 (14) 《罰ゲーム》

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「あたしが協力してあげる。ただし、一回だけね。もしそのチャンスを活かせなかったら、もう知らないよ」

三枝さんはそう言うと立ち上がった。

「そろそろ行こ。あんまりぐずぐずしてると相原くんたちに負けちゃうよ」

ぼくも立ち上がる。

彼女はいったい何をするつもりなんだろう...

協力してくれるというからには、悪いことではないと信じたい。

その後、ぼくたちは再び入り組んだ迷路構造をひたすら進み、ようやく出口へとたどり着いた。結局、謎解きらしい謎解きも見つからないままゴールまできてしまった。

アトラクションの外に出てみると、すでに相原・新野さんチームはゴールしていたようで、ぼくたちのことを待っていた。

「おれたちの勝ちだな」

「負けたよ」

「榊、負けたおまえには罰ゲームを受けてもらう」

「罰ゲームって、そんな話聞いてないぞ」

「勝負なんだから負けたほうにペナルティがあるのは当然だろ」

「だから、そういうことは最初に言えって...」

「まあ、ちょっとこっち来い」

相原がぼくに肩組をする。そのまま新野さんや三枝さんから離れたところに無理やり連れて行かれてしまった。

「榊、おまえ新野のこと、好きなんだろ」

「え...?」

突然の相原の言葉に戸惑う。百歩譲って相原がそのことに気づいていたとしても、なんでいまこのタイミングで聞いてくるのか理解できなかった。

「なんで...」

「わかるよ、それくらい」

一瞬、相原が寂しい目をした、ように見えた。

「今日のうちに気持ちを伝えろ、それが罰ゲームだ」

「今日のうちにって、もう夕方だぞ」

「気持ちを伝えるにはいい時間帯だろ?」

それだけ言うと相原は女の子たちのいるところへ戻っていってしまった。

相原が突然言い出したことに理解ができない自分がいた。いや、理解しようとするのを拒んでいたのかもしれない。

そもそも相原はなんで知っていたんだろう。あの言い方からしてまるで事実を確認するかのようだった。それから罰ゲームだとか言って今日中に気持ちを伝えるよう仕向けてきたのもわからない。今日中というのも変な話だ。もうすでに夕方だし、そんなタイミング残されてないんじゃ...

思考がまとまらない。考えることが多すぎる。

ひとまずぼくはみんなのところへ戻ることにした。いつまでもみんなから外れて考え込んでいるのも変だし、いまは特に勘ぐられたくない。

「あーあ、今日がもう終わっちゃいそう」

「次に乗るアトラクションが最後になりそうだな」

「最後はやっぱり...」

みんなが空を見上げる。堂々とそびえる大観覧車があった。

電車の車窓からはじめに見えたアトラクションもこの大観覧車だった。あのときは大観覧車を見て一日のはじまりに胸をふくらませていたが、いまは同じ大観覧車のはずなのに無性に寂しい気持ちになる。

「あたし、相原くんとふたりで乗りたいな」

三枝さんがつぶやくように言った。

――あたしが協力してあげる。

三枝さんの言葉が思い出される。間違いなくこのことだと思った。

「おれと? まあ、いいか。榊、おまえは新野と乗れよ」

相原が露骨に目配せしてくる。やめろ。

相原と三枝さんが先に乗り、その後に続いてぼくと新野さんも乗り込んだ。

一周約15分の大観覧車が僕たちを乗せて回り始めた。