ノスタルジック '00 (13) 《協力》

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「2:2のチームに分かれて、ラビリンスの出口目指して競争するってのはどうだ。チーム分けは、他校同士の親睦を深めるために、おれと新野、榊と三枝にしよう」

有無を言わさずまくしたてる相原に一言言い返したい気持ちもあったが、相原の言っていることも一理あると思った。

せっかく違う学校の生徒同士で遊びに来ているんだから、同じ学校の生徒とばかり行動しているのはもったいない気がする。

特にぼくと新野さんの場合、ついさきほどまでふたりでお化け屋敷に入っていたのでなおのこと弱い立場にあった。

ぼくたちは相原の言うことに合意し、ぼくと三枝さん、相原と新野さんに分かれてスタート位置についた。

「準備はいいか、それじゃスタート」

相原の合図で正面扉が開かれた。中は思ったより薄暗い。入り口からまっすぐ一本道が続いている。そのまま一本道を進むと、左右に道が分かれた突き当たりに行き当たった。

「ちょうど道がふたつに分かれてるな。ここが本当のスタート地点ってわけだ。おれたちは左の道を行くから、榊たちは右の道だ」

「わかった」

「じゃあな、先にゴールで待ってるぜ」

キザなセリフを残して、相原と新野さんはぼくたちとは反対側の道へと消えていった。

ぼくと三枝さんも注意しながら進むことにした。お化け屋敷のように驚かされることはないはずだが、ちょっとした謎解き要素もあると聞いていたので、どこかにヒントが隠されているかもしれない。

しかし進めど進めど謎解き要素どころかヒントすらない。ほとんどは入り組んだ迷路構造の薄暗い道か、突き当たりにたまにある大きな鏡に写った自分たちに少し驚くという程度のギミックしかなかった。

「謎解きがあるっていうから期待してたのに、ちょっとがっかり」

ついに三枝さんが愚痴り始める。あの明るい性格の三枝さんですら辟易させてしまうとは、ラビリンス恐るべし。

とはいえ三枝さんの言っていることももっともだ。謎解きがないばかりか、やたらと入り組んだ迷路構造に体力も精神も削られていく。相原と新野さんも同じように苦しんでいるんだろうか。

ぼくたちは少し休憩することにした。といっても休憩できるようなスペースは近くにはなさそうだったので、邪魔にならないように通路の端に並んで座って休むことにした。

「それにしても、相原くんにしてやられちゃったね」

「なにを?」

「そんなんじゃとられちゃうよ、新野ちゃん」

「なに言って...」

「いまごろ告白してたりして」

「...」

ぼくがなんとなく考えないようにしていたことをあっさりと言葉にする三枝さん。

考えないようにはしていたが、ずっと気にはなっていた。相原にチーム分けのことを切り出されたときは出し抜かれたと思ったし、いまも相原・新野さんチームのことが気になっている。

いまのまま手をこまねいているようでは、三枝さんの言うとおりになってしまうかもしれない。

「ねえ、お化け屋敷ではどうだった?」

「あんまり怖くなかったかな」

「そうじゃなくて、新野ちゃんとはどうだったの?」

「どうもこうも、新野さんが怖いって言うから、出口までずっとぼくの後ろに隠れてもらってた」

「ふーん...」

三枝さんはなにかを考えるているようだった。彼女にはぼくの考えていることなどすぐに見透かされてしまうが、ぼくには彼女が何を考えているのかさっぱりわからなかった。

「あたしが協力してあげる」

脈絡もなく三枝さんが言った。

「協力?」

「そう。ただし、一回だけ。もしそのチャンスを活かせなかったら、もう知らないよ」