ノスタルジック '00 (2) 《出会い》

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家から一番近い高校に進学した。

もともと頭は良くなかったし、将来に明確なビジョンなど持っていなかったから、進めるところならどこでも良かった。

目立ちたくないから冒険や挑戦などせず、それゆえ刺激のない毎日を高校でも送るんだと信じ切っていた。

きっかけは中学の卒業式の後に行った、初めての美容院だった。

そのときぼくは初めて親以外の人間に髪を切ってもらうという経験をした。

緊張はしたし恐くもあったが、そこでぼくは自分に少しだけ自信を持てたような気がする。

進学先の高校では、人並みに恋愛をしたいと思うようになった。

 

高校に入学してしばらくが過ぎた。

ぼくの後ろの席には偶然同じ中学出身の男子がいて、それをきっかけとしてクラスの男子連中とはそれなりに仲良くやっていた。

しかし肝心の恋愛に関してはからっきしで、女子と話すことなどほとんど皆無。話しかけるきっかけさえ見つけられない状況だった。

いや、そもそも話しかけるきっかけが見つかったとしても、周りの目が気になってろくに話せないだろうという予感があった。

ぼくは高校生にもなって女子と仲良くすることが気恥ずかしいことだと思っていた。

本心では女子と仲良くしたり恋愛してみたいと思っていたのに、周りの目が気になってさもそんなこと興味ありませんよという風を装っていたのだ。

初めて美容院へ行った日に少しだけ持てたあの自信は、まったく無意味なものとなっていた。

 

ところでぼくが進学した高校はちょっと特殊で、受ける授業を自分で選択するというシステムを採用していた。

大学でカリキュラムを自分で組むのとまったく同じで、何曜日の何時間目は自分の選択した授業を受けに行くというようなシステムだった。

選択する授業は年次があがるにつれて幅も選択肢も増えていく。

一年生のときは特定の曜日の特定の時間だけだったものが、三年生の頃になるとほとんどすべての授業が選択したものとなる。

授業の一部を選択式にすることで生徒の興味のある分野を明確にし、また長所を伸ばすことに繋がる。

さらに選択授業では普段のクラスメイトとはまったく違うメンツになるので、生徒同士の交流もより広がることになる。

当時としては先進的なシステムを採用していた高校だった。

 

その日は初めて自分で選択した授業を受けに行く日だった。

選択授業は教室が固定されているため、授業を受けるために教室を移動しなければならない。

見知ったクラスメイトとは違う、第二のクラスメイトとでもいう人たちとの初顔合わせということで、ぼくはとても緊張していた。

ぼくは恐る恐る教室に入った。周りを見渡しても見知った顔はひとつもない。ぼくは不安に襲われた。

どこに座ればいいのかわからなかったので、窓際から数えて二列目の真ん中あたりに座ることにした。

「おはよう」

腰を落ち着かせかけたそのとき、不意に声をかけられたような気がした。

ぼくは声のした方向――窓際のほう――に目を向けた。

視線の先、窓際の席にはひとりの女の子が座っていて、ぼくのことをじっと見ていた。

慌てて後ろを振り返る。誰もいない。ということは、今のは僕に言ったのか...?

「あ、うん...」

大馬鹿なぼくは「おはよう」の一言も言えず、曖昧な相づちをうつことしかできなかった。