『鬱ごはん』(著・施川ユウキ)の紹介

私の大好きな漫画『鬱ごはん』(著・施川ユウキ)を紹介します。

『鬱ごはん』の主人公・鬱野たけしは22歳で、就職浪人中です。タイトルと主人公の肩書を見ただけで引き込まれました。

鬱野たけしは就職浪人中である自身に強いコンプレックスを持っています。その割に、作品中で就職活動のようなことをしている気配はありません。

一方で、鬱野たけしは多方面への造詣が深いことがわかります。

あるとき彼はひとり、深夜のファミレスで何をするでもなく、物想いに耽っています。彼は、エドワード・ホッパーの『ナイト・ホークス(夜ふかしする人)』という絵画に描かれている、背を向けて座る男性と自身を重ね合わせます。

彼は考える――「時折、僕は彼になりたくて深夜のファミレスにやってくる」。

彼にはある種のナルシシズムがあり、高いプライドが見え隠れします。今は就職浪人をしているけど、いずれ世間が羨むほどの成功をおさめるはずだ。今は雌伏の期間なんだ…

そう思うだけで、彼は決して行動に移したりはしません。行動した結果、失敗するのが恐いのかもしれません。

鬱野たけしがひとりでご飯を食べるとき、傍らには一匹の黒猫が現れます。黒猫は人語を話し、彼にしか見えません。

黒猫は彼に語りかけます。

「タイミングを逃したら、ピザが冷めるようにあっという間に職歴なしで30やで」

なぜか関西弁の黒猫、とてもシュールです。黒猫はさらに続けます。

「お釣りに手間取った。コーラを買い忘れた。どんな理由があろうとも関係ない。結果は自分が引き受けるんや」

黒猫は彼が生み出した幻想。黒猫が彼に話す内容は、彼自身が一番よくわかっており、しかし考えたくないことなのです。

彼が黒猫に言わせていることは、就職浪人という身分に甘んじている自分を鼓舞するための内容が多い。それは時に、人生のどこかで甘い選択をしているわれわれ読者の心にも訴えかけてきます。

この漫画のグルメ要素はおまけみたいなものです。鬱野たけしがひとりでご飯を食べるときに思う小さな疑問、小さな失敗を見て、くすっと笑える。その小さなエピソードが毎回、絶妙に面白い。

万人向けの漫画ではありません。しかし、人生に妙な引っ掛かりを覚える人にとっては、きっと面白く感じるでしょう。

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